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年代測定についての考察 その1 [雑記(鉱物関連)]

前回、モルダバイトの話を書いた際に、年代測定の話も書きました。

このように、鉱物の話をする時に、よく年代の話が出てきます。では、どうやって測定しているのか?年代測定の方法は、実に様々です。私も十分に理解しているとは言えませんが、少しご紹介したいと思います。面白くない方には、全く面白くないお話な上、文字ばっかりで申し訳ありません。

もし、間違い等がありましたら、お手数ですがお知らせいただければ幸いです。
 
モルダバイトの話で引用させて頂いた文献中では、フィッショントラック法と カリウム - アルゴン法の二つの測定結果が示されて、どちらも1400万年~1500万年前という結果でした。これは、どんな方法なのでしょう?
年代測定の方法として大別すると、フィッショントラック法などの『自然放射線による固体物質内の損傷を利用する方法』とカリウム - アルゴン法の様に『特定の放射性核種の崩壊を利用する方法』があります。後者は放射年代測定と呼ばれる方法で、測定に使用する放射性核種の違いで様々な種類があります。良く知られた炭素14法もその一種です。使用する核種によってアルゴン-アルゴン法やウラン-鉛法など多くの種類があります。

ではまず、放射年代測定から説明します。

この測定方法は、放射性核種が何か?が分かってないと説明が出来ません。放射性核種は、放射性同位体とか放射性同位元素と同義ですが、要は安定な原子の核に余分な中性子があり一定期間で壊れてしまうと考えてください。
では、炭素14を例にして説明します。安定な炭素12の原子核は6個の陽子と6個の中性子から出来ています。炭素14は、中性子が2個多くて6個の陽子と8個の中性子から原子核が出来ている訳です。この炭素14は不安定なので、中性子が電子と反電子ニュートリノを放出して陽子になる(β崩壊する)ことで、窒素14になります。炭素14の半分が窒素14になるまでの時間が炭素14の半減期を呼ばれ、それぞれの放射性核種毎に半減期は異なります。因みに炭素14の半減期は、5730年、カリウム - アルゴン法に使われるカリウム40の半減期は約13億年です。カリウム40の放射性崩壊については下図をご参照ください。
K40.jpg

では、これらの放射性核種を使って、どのように年代を測定するのでしょう?岩石、とりわけ火成岩の年代測定にカリウム - アルゴン法が用いられたり、古い木簡などの木製出土品の年代測定には炭素14法が用いられるのは何故でしょう?以下にこれを説明します。

①まず、測定に使う放射性核種が、十分対象物に含まれる必要があります。火成岩にはカリウムが豊富に含まれる場合が多いですし、木簡などの木製品は炭素の塊といえますね。
②次に、測定に使う放射性核種の半減期が計りたい時間軸にあっている必要があります。カリウム40の半減期は約13億年ですが、地質学は地球創生から何十億年という長さを対象にしていますから丁度良いですね。また、木製の出土品は数万年~数百年を捉えたい訳ですから炭素14の半減期、5730年というのはベストな値です。逆に言えば、恐竜の化石の年代測定など数千万とか数億年前という年代測定に炭素14は適していません。
③最後に年代測定を行なうためには、今含まれている量だけでなく、最初に含まれていた放射性元素(或いは崩壊によって出来た元素)の量が分からなくてはなりません。でも『そもそも最初に含まれる量って分かるの?』って思いませんか?そこは良く考えられているので、大丈夫なんです。

火成岩が形成される時(モルダバイトの様に、隕石の衝突で高温になったガラスが溶けるのも同じです)、その高温のため、揮発性の高いアルゴンはほぼ全て揮発してしまい、大気中へ放出されてしまいます。つまり、出来たばかりの岩石中に、アルゴンは含まれていません。その後、カリウム40は、アルゴン40へと壊変し、岩石の中にアルゴンが含まれる様になります(このガスは岩の中に閉じ込められて揮発出来ない状態です)。つまり出来た時にはアルゴンの量が0で、現在含まれるアルゴンは全てその後出来た事になります。そこで、現在含まれているカリウムの量とアルゴンの量を測定する事で、その岩が冷え固まってから何年経ったかが分かると言う訳です。まあ、実際にはカリウム40は全てアルゴン40になる訳でないので(カルシウム40(89%)とアルゴン40(11%)になります、)補正する必要はありますが、基本的な測定原理はお分かり頂けると思います(下図に模式図と計算式を載せました)。
K-Ar.jpg

木製出土品の年代測定における炭素14の場合も、良く出来ています。自然界の炭素14は対流圏上部から成層圏で作られて地表に降ってきます。そして地上でどんどん崩壊していき、地上での炭素14と炭素12の比率は、ほぼ一定の値で推移していますつまり、初期値≒現在の値なんです(現在では較正曲線が出来、補正されています)。炭素は、常に光合成によって植物に取り込まれ循環しています。これによって、常に新しい炭素14が補充されています。しかし、死んでしまうとそこで炭素14は減る一方になります。そこで、現在の炭素14と炭素12の比率と比べると何年前に切られた木なのかが分かるという訳です。

ずいぶんと長文になってしまいましたので、フィッショントラック法を代表とする『自然放射線による固体物質内の損傷を利用する方法』での年代測定については、次回お話したいと思います。
タグ:年代測定法
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アヨアン・イゴカー

>現在の炭素14と炭素12の比率と比べると何年前に切られた木なのかが分かる
この比率は、どのように検証するのでしょう。有史時代の遺跡などから発掘されたものの中に含まれるC14とC12の量を比較して、それを測定の物差しとするのでしたっけ?昔、考古学の授業で習いましたが、すっかり忘れました。

ふと思いついたことですが、時間の長短はあれ、万物、あらゆる物質は放射性物質で、崩壊してゆくのではないでしょうか。膨張し縮小すると言う宇宙を考えると、それが自然な気がします。
by アヨアン・イゴカー (2009-02-12 09:00) 

optimist

アヨアン・イゴカー さん、こんばんは。
基本は、炭素14と12の比率は過去も現在も一定として計算します。でも最近は、年輪などを使って一万年位前までの値を得られているので、これと比較して補正するのが一般的ですね。
by optimist (2009-02-13 23:46) 

素風

炭素14法しか知りませんでした。
なるほどー。対象内に豊富に含まれる物質であるかどうかの前に、どのくらい昔のものを調査したいかどうかによっても年代測定の方法が異なるわけですねー。鉱物は特にどう生成されたかを理解しないと年代測定の方法が定まらない、よく考えればそりゃそうだなー、という気がします。
すんごく興味深いです。
by 素風 (2009-03-09 10:55) 

optimist

素風 さん、こんばんは。
炭素14法は有名ですものね。私もこの記事を書くのに、調べ直しましたが、面白いですよね~。改めて感動しましたもの。
この記事を書いたり、図を描いたりしながら、高校生位までの子が目にして興味を持って貰えたら嬉しいな~なんて思ってました。面白い分野だと思うんですよ。ただ、これで御飯は食べられそうもないけど・・・。
by optimist (2009-03-11 22:56) 

niwatoriblog

はじめまして。
現在、高校の理科の教師をしています。
カリウム40の放射性崩壊の図が素晴らしいので、
授業で使うプリントに掲載したいのですが、
駄目でしょうか。
もちろん、引用元もしっかり紹介する予定です。


もしよろしければ、連絡をいただけると
幸いです。
連絡先は
rntbr(アット)gmail.com
です。

不躾なお願いで申し訳ありませんが、
よろしくお願いいたします。
by niwatoriblog (2011-05-04 23:52) 

optimist

niwatoriblog さん、こんばんは。
コメントに気がつくのが遅れてしまい、申し訳ありません。
メールでもお返事致しましたが、そのような理由であれば、どうぞご自由にお使い下さい。
尚、この図は、完全に私が作ったもの(まあ内容は教科書そのままの基本的な話ですけど)ですので、版権などの心配もありません。
by optimist (2011-05-18 22:30) 

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